緑を表す伝統色12選!柳葉色や木賊色、草木が愛しくなる言葉

自然界にはさまざまな緑が存在します。日本人は長い歴史の中で、草木を愛で、四季の移ろいの中に緑の美しさを見出し、繊細な感性で美しい名前をつけてきました。

柳葉色や木賊色、青朽葉など、情緒が感じられる緑の伝統色を紹介します。

緑にまつわる言葉(1)柳葉色(やなぎはいろ)

柳葉色とはその名の通り、柳の葉色を表す言葉です。

柳の葉色に名をつけるとは、なんと繊細な感性なのでしょう!古人にとって、いかに柳が身近で、愛でる存在であったかも実感します。

現代を生きる私たちは、日常的に柳を見かけることはなくなってしまいました。柳のある風景として思い浮かべるのは、古都の風情が残る川べりや水路沿い、日本庭園の池といったところでしょうか?

でも柳は、日本情緒を感じさせてくれる木。万葉集にもうたわれるほど、日本に長く息づいてきました。

奈良時代の都・平城京、南北に走る朱雀大路の両側にも、柳が植えられていたと言います。

朱雀大路は、長さおよそ4km、幅75mもの大きな通りでした。柳葉色に染まる風景は、どれほど見事だったのでしょう。平城宮に仕える貴族や役人たちは、朝夕ごとに美しい並木を通ったのですね。

柳といえば、印象派の巨匠モネが好んだことでも有名です。日本風のものに憧れたモネは、ジヴェルニーに構えた邸宅の「水の庭」に、日本の植物をたくさん植えました。

水面に浮かぶ睡蓮、池を囲む藤棚、そして枝垂れ柳。日本といえば柳と連想するほど、日本の風景にとって柳は欠かせない木なのです。

そんな柳がとりわけ美しい姿を見せてくれるのが、春の芽吹きのころ。柳は春を迎えると、いち早く新芽を出します。枝垂れた枝から一斉に芽吹き、春の訪れを知らせてくれるのです。

木全体がうっすらとした緑に包まれる光景は、平安貴族にことのほか愛されたのだとか。芽吹いたばかりの柳の色を指す「浅緑」という言葉もあるほどです。

浅緑とは本来、春に芽吹いた柔らかな若葉の色を指します。とても軽やかで、明るい色合いです。

そう、柳の芽吹きは、桜が咲くころ。煙るかのように優雅に芽吹く柳と、しっとり咲く桜。情緒を感じる組み合わせです。

昔の人々にとって柳の新芽は、桜と共に、待ちわびた春の到来を知らせる存在だったのですね。

緑にまつわる言葉(2)若緑(わかみどり)

浅緑が柳の新芽を指したのに対し、若緑は“松の新芽”を指す言葉としても知られています。

若緑とは本来、新芽や若葉の色を指す言葉。昔の人々にとって、松の新芽も特別な存在だったのでしょうね。

ちなみに松の枝先から伸びる新芽を「松の芯」と呼びます。棒状の松の芯は、天に向かって伸びていき、やがて緑になります。そして少しずつ葉へと変わっていくのです。

芯と呼ぶのは、芽が蝋燭(ろうそく)に似た姿だから。松に蝋燭が立っていると思うと、見方が変っておもしろいと思いませんか?

勢いよく春空へと伸びていく松の芯は、多くの歌人の心を惹きつけてきました。そのため、松の芯にまつわる季語がたくさんあります。

松の芯」は春の季語、松の新芽が勢いよく芽吹くさまを表す「緑立つ」も春の季語です。そしてもう一つ、樹形を整えるために松の芯を摘むことを意味する「緑摘む」も春の季語です。

本当にたくさんありますね。新芽を摘む作業までもが季語になるとは、いかに日本人が松を大事にしてきたかが分かります。

緑にまつわる言葉(3)若菜色(わかないろ)

若菜色とは本来、春先に芽を出す山菜の色のこと。ところが若菜は、春の七草の別名でもあることから、春の七草の色合いを指す言葉としても使われます。

せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ。漢字で書くと、芹、薺、御形、繁縷、仏の座、菘、蘿蔔。ますます風情があるように感じられます。

新たな春を迎え、若菜を摘みに出る“若菜摘み”の風習は、奈良時代からあったと言われています。

いまと違って、保存技術が発達していなかった古の時代。冬に野菜を食べると言えば、乾燥させたものだったり、漬物にしたものだったり。そんな食生活だったはず。

ところが雪に覆われていた地面が顔を出せば、若菜の季節。きっと芽吹いた若菜を、心躍らせながら摘んだのでしょう。

古人にとって若菜は、待ちわびた春の恵み。そう思うと、若菜色を見るだけで、幸せがひたひたと心を満たしてくれます。

緑にまつわる言葉(4)若苗色(わかなえいろ)

若苗色とは、田植えの時期の若い苗の色を指す言葉です。

田植を終えて間もない田を「植田」と言います。植田は、若苗色の田んぼです。満ちた水に稲の影が優しく映り、とても静かで穏やかな空気が流れています。

若苗色は初夏の色として、平安時代から使われてきました。『源氏物語』にも、若苗色が登場します。

濃き袿に、撫子と思しき細長、若苗色の小袿着たり

(引用)紫式部『源氏物語』宿木

小袿(こうちぎ)とは、十二単の略装です。身分の高い女性たちが日常用として、または準正装として着用していました。若苗色は、とても明るく、輝くような黄緑色。きっと顔色も美しく映えたことでしょう。

若苗色に染まった田んぼも、1か月も経つと、「青田」と呼ばれるようになります。稲の緑は深みを増し、「苗色」になるのです。

田植えの春、成長の夏、そして実りの秋。昔から変わらぬ、日本の原風景です。昔の人々は苗の色を見て季節の移ろいを感じ、そして収穫のときを心待ちにしていたのでしょう。

当たり前のようにお米が食べられる現代。苗の色を細やかに描写した古人の感性に触れ、改めて感謝しなければとひしひし感じます。

緑にまつわる言葉(5)萌黄色(もえぎいろ)

萌黄色は、早春に萌え出ずる新緑を指す言葉です。

まだ緑になりきる前の、黄色がかった緑色。とても若々しく、希望を感じさせてくれる黄緑色です。

この萌黄色、平安貴族の間で圧倒的な人気を集めました。とりわけ若い貴族たちの間で流行したのだとか。枕草子にも、こんな一節があります。

指貫はむらさきの濃き。萌黄。夏は二藍。いと暑きころ、夏虫の色したるもすずしげなり。

(引用)清少納言『枕草子』第二百六十三段

ここで話題になっている指貫(さしぬき)は、平安時代の袴のこと。裾がひもでくくれるようになっているのが特徴です。

はっきりとした物言いが、清少納言の持ち味。この一節でも、一体どんな色の指貫が魅力的なのか、自らの好みを小気味いいぐらい潔く語っています。

「指貫は、紫の濃い色のものが良い。それから萌黄色も。夏は二藍、大変暑い頃には、夏虫の色をしたのも、涼しげで良い」

短い言葉の中に、清少納言の感性の鋭さが光ります。萌黄色は若い貴族の間で、粋な色だったのでしょうね。

緑にまつわる言葉(6)萌葱色(もえぎいろ)

“もえぎ”と読む色名には、先ほどの「萌黄」だけではなく、「萌葱」もあります。

萌黄と萌葱。違いは一文字。萌黄は「黄」と書き、萌葱は「葱」と書きます。

そう、名前の通り、萌葱色は青葱に由来する緑色のこと。萌黄色と比べて濃く、くっきりとした青が特徴です。こうしてずらりと並ぶ青葱と見比べると、たしかに葱の色のようです。

ちなみに萌葱色を見ると、何か連想しませんか?実はこの萌葱色、歌舞伎の定式幕(じょうしきまく)の色なんです。

定式幕は「黒・柿・萌葱」の三色が縦に並びます。座によって配色や並び順がやや異なりますが、歌舞伎と言えば思い出す定番の色合いですね。

歌舞伎では、さまざまな幕が使われますが、定式幕は芝居の幕開きと終幕に使われるもの。いわばシンボルともいえる存在の幕に、萌葱色が使われているのですね。

緑にまつわる言葉(7)蓬色(よもぎいろ)

蓬色とは、よもぎの葉のような緑色を指す言葉です。

伝統色の蓬色は、実際のよもぎよりも少し青みがかった色。その分、緑の濃さが際立ちます。

特有の香りを持つよもぎは、昔から薬草として大切にされてきました。今でも草餅にしたり、よもぎ風呂にしたりと、現代を生きる私たちの暮らしに息づいています。

春になると思い出すのは、幼い頃のよもぎ摘み。親と一緒に、春になると野山へよもぎ摘みに行ったものでした。

よもぎは道端や土手、河原、あぜ道などにも自生しています。でも摘みに行くのは、人が立ち入らないような山中のよもぎ。人知れず新芽を出すよもぎの姿は、幼い私にも春を告げる存在に写りました。

よもぎ餅に使えるのは、芽吹いたばかりの柔らかい新芽だけ。そっと摘むと特有の青い香りが広がったのを思い出します。

摘みたての新芽をたっぷり入れてつくるよもぎ餅は、驚くほど色が濃く、野性味あふれる味わい。まさに、伝統色の「蓬色」そのもののよもぎ餅だったのを思い出します。

緑にまつわる言葉(8)木賊色(とくさいろ)

木賊色とは、植物のトクサの茎のような、青みがかった濃い緑色です。

とはいっても、「トクサ?」と疑問に思うかもしれません。おそらく一度は見たことがある植物のはず。でも名前を聞いても、すぐにはどんな植物か思い浮かばない方も多いことでしょう。

トクサとはこちら。竹を思わせる節のある茎、すっと伸びる姿。日本庭園の下草としておなじみですね。

渋みのある木賊色は、鎌倉時代の武士に好まれたのだとか。平安時代の貴族と違って、武士は力強く堅実なものを良しとしました。同じ緑色でも、萌黄色のような明るく優雅な色合いを好んだ平安時代の貴族とは対照的ですね。。

ちなみにトクサの茎は硬く、天然のやすりとしても愛用されていました。秋に刈り取って乾燥させると、刃物を研ぐこともできたそう。そのため木賊は、「砥草」とも書きます。

実用的なものが好まれるのもまた、質実剛健なものを好んだ、武家文化ならではと言えそうです。

緑にまつわる言葉(9)若竹色(わかたけいろ)・青竹色(あおたけいろ)・老竹色(おいたけいろ)

緑にまつわる伝統色には「竹」を冠した名前もたくさんあります。まず、若竹色。まだ若い竹を思わせる淡い緑色のことを指します。

若竹が成長すると、背丈が伸び、色合いも濃くなります。力強さのある青竹色へと変わっていくのです。

私たち日本人にとって、美しい竹林は心落ち着く風景です。涼しげな色、天高くそびえる端正な姿。竹林の中にいるだけで、心が静けさに満たされます。

そして風が吹けば、さらに心地よさに包まれます。葉擦れの音がさらさらと響くと、心が研ぎ澄まされていくのを感じます。

日本の歴史において、竹はいつでも身近な存在でした。竹は美しい上に、軽くて丈夫、それでいてしなやか。昔から竹ざるや竹かごなど、日用品の材料として使われました。

さらには、尺八や笛といった雅楽の楽器の材料として、茶道や華道の道具の材料として、日本文化において重要な役割も果たしてきたのです。

暮らしと共にある竹は、年月を経ると色がくすみ始めます。そして老竹色になっていくのです。

竹がもつ青いイメージとはまた違い、 侘び寂びを感じさせる色合いです。これもまた竹の色。心の奥深くに語りかけてくれるような、静かな力強さを感じます。

瑞々しい若竹色、力がみなぎる青竹色、そして落ち着きのある老竹色。どの色にも、ならではの風情があります。

竹の一生を呼び分けた、古人の美意識と感性。大事に伝えていきたいものです。

緑にまつわる言葉(10)裏葉色(うらはいろ)

裏葉色とは、木の葉や草の裏側のような、渋くくすんだ薄緑色のことです。

葉裏にまで目を向けて名前をつけるとは、なんと細やかなのでしょう。古人の美意識に、思わずため息がこぼれます。

表ではなく、裏の色。意識しなければ決して見えません。でも「表裏一体」という言葉があるように、表と裏は本来一つのもの。表があるから裏があり、裏があるからこそ表が存在できるのです。

ただ目の前にある美しさだけではなく、その美しさを支える本質を探ろうとする心が、裏葉色という言葉を生んだのかもしれません。

裏葉色は、繊細な感性をもつ日本人だからこそ生まれた美しい伝統色。忘れてはならない本質を教えてくれる、大事にしたい言葉の一つです。

緑にまつわる言葉(11)苔色(こけいろ)

苔色とはその名の通り、苔のような深く渋い黄緑色を指す言葉です。

苔色は、深みのある緑色。日本庭園や寺院、そして渓流の美しさを引き立てる名脇役です。

苔色は、四季折々の色をいつでも静かに支えます。季節の主役が映えるよう、最高の舞台を用意してくれるのです。

春空を染め上げる桜、初夏を迎えてまばゆいほどに輝く新緑、秋を迎えて燃えるように色づくもみじ。苔色のおかげで、ますます美しさが際立つのですね。

緑にまつわる言葉(12)青朽葉(あおくちば)

青朽葉とは、まだ夏の気配が残る初秋に散りゆく葉の色を表す言葉です。

夏から秋へとう移ろう時期。まだ多くの木々が、葉を茂らせています。でも日に日に秋に向かう中で、木も着々と支度を進めているのです。

そんな葉の様子に注目し、地面に静かに落ちる朽葉に注目するとは、日本人の細やかさを感じずにはいられません。しかも「朽葉四十八色」という言葉があるように、朽葉色にはさまざまな種類があります。

まだ緑が残る青朽葉にはじまり、黄色く染まった黄朽葉、真っ赤に燃える赤朽葉。さらには濃朽葉や薄朽葉……。

落ち葉ではなく、朽葉。美しい言葉です。そして一言で朽葉とくくってしまうのではなく、色の違いを見て呼び分けることで、ますます季節の移ろいが感じられそうです。

まとめ

緑を表す伝統色を見てきました。微妙な色を見分け、それぞれに名前を与える豊かな表現力。美しい伝統色の名を知ると、感性を研ぎ澄ませて暮らしたいものだとしみじみ思います。

四季に恵まれた国に暮らす私たち。いつでもまわりには美しい緑があります。緑を表す伝統色を大事にして、心豊かに暮らしたいものですね。

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