秋といえば、紅葉の季節。木々がほんのり色づき始めると、今年はどんな紅葉風景と出会えるのかと胸躍ります。
日本語には、紅葉の美しさを表現する言葉がたくさん存在します。野山の錦や名木紅葉、谿紅葉など、紅葉風景を表す言葉を集めました。
紅葉の美しさを表現する言葉(1)野山の錦(のやまのにしき)
野山の錦とは、山野が色とりどりに染まって豪華なありさまを、錦にたとえた言葉です。山に行ってこんな風景と出会えたら、思わずため息がこぼれそうです。
錦とは、何色もの糸を使い、紋様を織り出した絹織物のこと。錦にはさまざまな色が使われます。金銀をはじめ、緑や藍色、紅色、そして白……とてもあでやかで華麗です。
野山を染める、黄色や赤、オレンジの葉。たしかに、柄のように見えますね。自然が織りなす色柄が、色糸で織り出された紋様だと思うと、野山が雅なものに感じられます。
紅葉の美しさを表現する言葉(2)紅葉の帳(もみじのとばり)
紅葉の帳とは、一面に紅葉した様子を、帳に見立てていう言葉です。
帳とは、外からの目隠しのために垂らす布のこと。分かりやすいのが、平安時代の文学に登場する几帳(きちょう)です。
几帳は、間仕切りや目隠しのために用いられた、室内調度の一つ。上から吊り下げられ、ひらひらと揺れているのが几帳です。
帳は、外からの視線をさえぎるためのもの。でも決して、外と内とを完全に遮断するものではありませんでした。
なにぶん、帳は布です。薄明かりやそよ風、木の葉のすれ合う音、静かな虫の鳴き声など、繊細な気配を中へと伝えました。
心地よく過ごせるプライベートスペースを確保しつつ、外の様子を伺い知ることができる仕掛け、それが帳だったのでしょう。現代の暮らしでいえば、帳はさしずめ「レースカーテン」といったところでしょうか。
紅葉風景のような帳があったら、なんと美しいことか!奥には、どのような平安美人が佇み、一体何を考えているのか……思いを巡らせるのも一興です。
紅葉の美しさを表現する言葉(3)名木紅葉(なのきのもみじ)
名木紅葉とは、紅葉の美しい木を一括していう言葉です。
紅葉と聞いて真っ先に想像するのは、モミジや銀杏でしょう。モミジがうっすらと色づき、緑一色だった銀杏並木が柔らかな黄色に染まり始める光景を見かけると、秋の訪れを感じます。
でも秋に紅葉するのは、モミジや銀杏だけではありません。意識してまわりの景色を見渡すと、お目当てにしたい紅葉ともっと出会えるのです。
たとえば、桜。春に繊細な美しさを愉しませてくれる桜は、秋の紅葉も美しいのです。
ほんのりと色づいた桜の葉。淡く清楚な花とは違った、可憐さがありますね。
柿の葉も、秋になると紅葉します。柿と色を合わせるかのようにオレンジ色に染まったり、くすんだ赤茶色に染まったり。「これぞ日本の秋!」といった素朴な色合いです。
秋になると、梅もひっそりと紅葉します。色づいた葉色はとても淡く、どこかはかなげ。秋風に吹かれて、寒さで頬を赤らめているかのようです。
……とこんな風に、紅葉する木を挙げ始めると、どんどん出てきます。それぞれ桜紅葉や柿紅葉、梅紅葉といった、風流な名前がつけられています。
そう、日本には思わず「〇〇紅葉」と呼びたくなる樹木がたくさんあります。あまりに多いので、ひとまとめにして呼ぶ「名木紅葉」という言葉が生まれたのです。
これほど多くの紅葉が見られる国、日本。改めて恵まれた環境であると実感せずにはいられません。
紅葉の美しさを表現する言葉(4)谿紅葉(たにもみじ)
谿紅葉とは、紅葉で彩られた谷の風景を指す言葉です。清らかな水の流れ、大小さまざまな岩が織りなす造形美、燃え立つようにあでやかな紅葉……谿紅葉は、えも言われぬ野趣に富んだ紅葉風景です。
そういえば、渓谷沿いには紅葉の名所が多いと思いませんか?これにはちゃんと理由があります。なぜなら渓谷には、美しく紅葉する条件がそろっているからなんです。
葉が美しく色づくために必要とされているのが、「十分な日当たりがある」「夜になると冷え込む」「適度な水分がある」という三つの条件。そう、渓谷はまさに、紅葉の条件を満たした絶好の場所なのですね。
しかも渓谷では、水の音も風情を増してくれます。さらさらと流れるせせらぎ、滝壺へと落ちる水しぶきの音を聴きながら眺める紅葉は格別です。
ちなみに、紅葉した葉が落ちた川を「紅葉の川」(もみじのかわ)と呼びます。川の水面に浮かぶ紅葉の葉も風情がありますね。
まるで絵画のような光景を見ながら、息を飲むほど美しい世界に浸りたいものです。
紅葉の美しさを表現する言葉(5)庭紅葉(にわもみじ)
庭紅葉とは、紅葉で色どられた庭を指す言葉です。もちろん、紅葉の名所に行って紅葉狩りを愉しむのも一つの手。でも自宅に紅葉する庭木を植え、庭紅葉を愛でるのもいいものです。
庭に庭にモミジが植わっていれば、年中葉色の変化を愛でることができます。モミジは春の芽出しも美しく、初夏の新緑も見事です。
青々としたモミジの、なんと涼しげなこと!繊細な葉姿も風情があり、暑さを忘れさせてくれます。
そして秋は、いよいよ紅葉シーズン。でも一気に葉色を変えるわけではありません。モミジの紅葉は、薄紅葉から。ほんのりと色づき始めます。
夏の濃い緑から黄緑へ、そして黄色やオレンジ、燃えるような赤へ……そんなグラデーションを描くモミジを毎日見ることができるのは、庭紅葉ならでは。庭にモミジがあれば、葉を摘んで、料理のかいしきやあしらいに使うこともできますね。
でも、モミジを植えるようなスペースがない……それならば、ドウダンツツジが良いかもしれません。
ドウダンツツジは、真っ赤に紅葉する落葉性の低木です。樹高は1~2mと低め。さほど広いスペースを必要としないので、他の樹木と一緒に植え込みやすいのが魅力です。
しかもドウダンツツジは、新緑や愛らしい花も楽しめる樹木です。春の終わりから初夏にかけて咲く白い花は、まるで小さな鈴のよう。耳を澄ませると、優しい鈴の音が聞こえてきそうです。
枝ぶりが美しいドウダンツツジは、夏の枝物としても人気です。庭に植えてあると、気軽に枝を切り、部屋に飾って楽しむこともできますね。
紅葉の美しさを表現する言葉(6)紅葉筵(もみじむしろ)
紅葉筵とは、紅葉が散り敷いたさまを筵(むしろ)に見立てていう言葉です。「紅葉蓆」と表記することもあります。
筵とは、藁(わら)やイグサなどの草で編んだ簡素な敷物のこと。はらはらと落ちた葉が、足元を赤や黄色のじゅうたんのように埋め尽くす……そんな晩秋の風景を表す言葉です。
紅葉筵のころには、そろそろ朝晩ぐっと冷え込みます。温かいミルクティーが飲みたくなったり、暖房のぬくもりが恋しくなったり。まさに晩秋の季語「火恋し」(ひこいし)が似合う季節の到来ですね。
まとめ
木々が紅葉するのは、落葉前のほんのひととき。秋は足早に通り過ぎていきます。だからこそ、紅葉の美しさが心に染み入るのかもしれません。
野山の錦、紅葉の帳、谿紅葉……紅葉の美しさを表現する言葉は、言葉自体も趣があります。日本の美しい風景と言葉。どちらも守りたい大事な存在です。