秋になり、紅葉するのはモミジだけではありません。桜や梅、柿や漆、葡萄の葉の紅葉も見事です。さまざまな紅葉の美しさに気付いたら、秋の愉しみの幅が広がりますね。
桜紅葉や柿紅葉、草紅葉など、紅葉する植物に関する風流な言葉を紹介します。
紅葉する植物の言葉(1)草紅葉(くさもみじ)
草紅葉とは、草が色づくことを指す言葉です。
草紅葉が見られるのは、樹木よりひと足先。足元の草が先陣を切って、秋の訪れを知らせてくれます。「紅葉の始まりは、草紅葉から」なのです。
草紅葉を愉しめる代表的な場所が湿原です。見渡す限り赤い草紅葉。とても見事です。
黄金色に色づく草紅葉も風情がありますね。秋風が吹くと、そよそよと優しく揺れます。とても穏やかな秋の表情です。
草紅葉は、山肌も染め上げます。草の紅葉の別名は、「草の錦」。あたりを染める色合いは、たしかに錦のようです。
山肌を染める草紅葉の代表といえば、高山植物のチングルマ。夏に群生して咲いているのを見ると、可憐な咲き姿に心奪われます。
チングルマは、花が咲き終わった後も可愛いのです。花後のチングルマは、なんとこんなユニークな姿へと変わります。柔らかな髪の毛をなびかせているかのようですね。
そして、いよいよ秋。草紅葉の季節が訪れると……。
緑色の葉が、すっかり濃い赤に染まります。夏からはまったく想像もできないような色合いです。
湿原や山に出かけなくても、草紅葉と出会えます。たとえば、イヌタデやヨモギ、メヒシバ、そしてエノコログサ。庭の片隅や道端、空き地で見かける草たちも、草紅葉の主役です。
ふと目をやれば、秋の日差しを受けて揺れる草紅葉。こうして秋色に染まりながら、ひっそりと冬の準備を進めているのですね。
先人たちはその一途な美しさに目を留めて、草紅葉と呼んで愛でてきました。草木の下葉が紅葉することを「下葉」とも呼びます。
季節の移ろいに心を配り、言葉にして愛でる……その繊細な感性に頭が下がると共に、大事にしたいと改めて思います。
紅葉する植物の言葉 (2)桜紅葉(さくらもみじ)
桜紅葉とは、秋になって桜の葉が紅葉すること。紅葉した桜の葉自体も指します。
桜というと春のイメージです。花が散って葉桜になってからは、あまり意識しないかもしれません。秋はなおさらでしょう。
でもぜひ、紅葉の時期にも桜に目を向けてみてください。桜紅葉はとても美しいのです。
桜紅葉の魅力は、その落ち着いた色合い。緑から黄色へ、そしてオレンジ色へ。柔らかな色合いです。
そして終盤のほんのひととき、もう一つのお愉しみが待っています。葉の表だけが、真っ赤に色づくのです。
真っ赤な桜の葉は、まもなく落葉します。散り積もった葉の何と美しいこと……と思って調べてみると、なんと桜の落ち葉は「桜の落ち葉染め」に使えるのだとか!
葉をじっくりと煮出し、寝かせておいた染色液。布や糸を染めると、淡いサーモンピンクやローズピンクに色づきます。
ぐつぐつと煮出すときには、桜餅のような香りが漂うそう。桜の落ち葉染め、一度試してみたいものです。
紅葉する植物の言葉 (3)梅紅葉(うめもみじ)
梅紅葉(うめもみじ)は、梅の葉が紅葉することを指す言葉です。なんと淡く繊細な紅葉なのでしょうか!
梅紅葉には派手さはありません。でもおとなしい色味だからこそ、味わい深い趣が感じられませんか?
梅紅葉は、色づいてもほとんど目立たず、すぐに散ってしまいます。梅紅葉という言葉を知らなければ、紅葉の美しさを見過ごしてしまうことでしょう。でも、こんな繊細な紅葉を見逃すなんて、もったいないことです。
梅紅葉には、モミジや銀杏とは違ったささやかな美しさがあります。その美しさを穏やかに愛でると、とても豊かな時間が過ごせそうです。
紅葉する植物の言葉(4)銀杏紅葉(いちょうもみじ)
銀杏紅葉とは、イチョウの葉が黄金色に色づくこと。黄色に染まったイチョウの葉自体も指します。
銀杏紅葉は、あたりを黄色い世界に塗り替えてしまいます。見慣れた景色も、銀杏の黄色に包まれると、まるで映画の舞台のようです。
銀杏紅葉の時期には、ぜひとも銀杏並木に足を運びたいもの。足元を見下ろせば鮮やかな黄色の絨毯、見上げればあでやかな黄葉の数々、そして澄み切った青空。とても心地いい空間です。
ベンチに腰を下ろして本を読んだり、落葉したイチョウをカサカサと踏み分けながら散歩したり……銀杏紅葉は秋の静かなひとときを過ごすのにぴったりです。
紅葉する植物の言葉 (5)柿紅葉(かきもみじ)
柿紅葉とは、柿の葉が紅葉すること。紅葉した葉そのものも指します。
柿紅葉の魅力は、なんといっても色が入り混じっていること。鮮やかなオレンジ色に、くすんだ赤茶色、ほんの少しだけ夏の緑も残っています。緑も一様ではなく、黄色がかった緑や深緑もあります。
たった一枚の葉の中で、さまざまな色が主張するさまは、柿紅葉ならでは。自然がつくった配色は、日本の里山の風景にしっくり馴染みます。
紅葉する植物の言葉 (6)葡萄紅葉(ぶどうもみじ)
葡萄紅葉とは、葡萄の葉が紅葉していることを指す言葉です。
葡萄を収穫し終えた後、葡萄畑には秋の冷たい空気が満ち始めます。その冷気を受けた葡萄の葉が美しく紅葉するのです。
紅葉し終えるころ、葡萄の葉には最後のひと仕事が待っています。葉に蓄えた養分を枝に、そして根へと送り込みます。そして役目を終えたとばかりに、散っていくのです。来年も、おいしい葡萄をたくさん実らせてくれるでしょうか。
葡萄紅葉の色は、品種によるのだとか。まばゆいばかりに輝く黄金色、まるで夕日のような緋色。どちらも秋ならではの色合いです。
紅葉狩りといえば、モミジや銀杏が定番。でもときには、黄金色や緋色を求めて、葡萄紅葉を見に行くのも趣向がかわっていいものです。
紅葉する植物の言葉 (7)漆紅葉(うるしもみじ)
漆紅葉とは、漆が紅葉すること。漆紅葉の魅力は、紅葉しきったときの鮮やかさ。深紅に染まった漆紅葉と、澄んだ秋空。コントラストが見事です。
漆は、まだ他の木々が緑の葉を茂らせている頃から、紅葉し始めます。真っ先に紅葉の季節を告げてくれる樹木なんです。
漆には、つるを伸ばして生長するツタウルシもあります。幹をよじ登りながら紅葉する姿が可憐です。
蛇足ながら、漆に触れるとかぶれてしまいます。美しさに心惹かれて、つい近づいてしまわないように……ほんの少し離れた場所から愛でたいものです。
紅葉する植物の言葉 (8)櫨紅葉(はぜもみじ)
ウルシ科ウルシ属の櫨(はぜ)の木も、紅葉が見事。櫨の葉が色づくことを、櫨紅葉と呼びます。
真紅に染まった櫨紅葉は、これぞ真っ赤な秋。秋の季語として、多くの歌人に詠まれてきました。こんな赤を見ると、たしかに心が動きますね!
でも櫨紅葉は、まだ色づき始めた薄紅葉の時期も美しいのです。
緑の葉に、ほんの少しずつオレンジ色の葉が混ざり始めます。やがて深紅に染まり、秋空に燃え上がるのです。
櫨は身近な木ではないかもしれません。でも漆と並び、真っ赤な秋を見せてくれる木として、秋に探したいものですね。
紅葉のつく言葉(9)雑木紅葉(ぞうきもみじ)
雑木紅葉とは、雑木林の紅葉のこと。楢やブナ、クヌギなど、さまざまな樹木が紅葉するさまを表す言葉です。
黄色や朱色、オレンジ色など、さまざまな色合いが重なって、とても明るい光景です。こんな紅葉に出迎えられると、気持ちが透き通っていきますね。
雑木紅葉も秋の季語です。紅葉が愉しめるのは、紅葉の名所だけではありません。名もなき林を目指してみると、美しい雑木紅葉が出迎えてくれるかもしれませんね。
まとめ
春は桜、秋といえば紅葉。涼しくなってくると、今か今かと紅葉を待ちわびます。紅葉前線が気になり、お出かけの予定を考えるのが楽しい季節でもあります。
でも紅葉するのは、モミジや銀杏だけではありません。道端には草紅葉、いつも通る桜並木も紅葉します。紅葉する期間はほんのわずか。一つでも多くの紅葉を見つけて、冬を迎えたいものですね。