夏にまつわる言葉12選!緑を愛で、心地よい涼をとる愉しみ

気温がぐっと上がる夏。ジメジメした日が続きます。でも暑いからこそ緑も美しく、涼をとることの心地よさも味わえる……そう思うと、夏のイメージが変わりませんか?

柿若葉や夏座敷、滝浴みなど、夏の風情を感じられる言葉はたくさんあります。夏の暑さが愛しくなるような、夏にまつわる美しい言葉を集めました。

みずみずしい「緑」を表す夏の言葉

夏は、緑色が映える季節です。芽吹いた草木が勢いよく成長する様子には、みずみずしさと心地よい生命力が感じられます。

柿若葉青田、そして「山滴る」など、緑の美しさを表現している夏の言葉を紹介します。

夏の言葉(1)柿若葉

柿若葉とは、芽吹いたばかりの柿の葉のこと。夏の季語でもあります。

柿若葉は、なんと柔らかな黄緑色なのでしょう!明るさと透明感、ひたむきさ。そんな心地よい力が、まっすぐに押し寄せてくるかのようです。

そして葉がとても薄く、葉脈も可愛いのです。優しく浮かぶ葉脈の繊細さが愛おしく、つい見とれてしまいます。

柿若葉が醸し出す雰囲気は、とても軽やか。私たちが知る柿とは、違った世界観です。

柿といえばやはり、想像するのは秋の光景。しっとりとした情緒があり、日本の山里を思わせる懐かしさがあります。これぞ日本の秋、といった風情です。

小学生のとき、ある日の図工の授業で、里山の写生に出かけたことがありました。ひんやりした秋の空気を感じながら描いたのは、一軒の古民家とその傍らで大きく育った柿の木。

深い色に紅葉し、たわわに実るオレンジ色の柿。その風景には、優しく包んでくれるような安心感がありました。柿=実りの秋。そんな幸せな構図が、日本人のDNAに組み込まれているのかもしれません。

そんな柿も、若葉の頃はこんなに可憐で、花も近寄らなければ見逃すほど小さいのです。こちらの写真の中、ひっそりと愛らしい花が咲いているのがご覧いただけますでしょうか?

柿若葉といい花といい、とても慎ましやかです。ところが秋には、里山の主役にもなるような風格を身につけるのですから立派なもの。

そんな過程に想いを馳せると、愛しさが増す気がしませんか?柿若葉のことを知ると、柿の成長の早さに感動すら覚えます。

柿若葉を見つけに行こう!愛らしい姿を見に行こう!そう思うと、初夏の散歩も楽しくなりそうです。

夏の言葉(2)青田

青田とはその名の通り、稲が成長し、青々とした田んぼを指す言葉です。

田植えを終えたばかりの稲は、まだ控えめな様子。愛らしい苗が、広々とした田んぼにちょこ
んと植わっています。この様子を「植田」(うえた)といいます。

田を囲む山々、静かに佇む木々。田んぼ周辺の光景が写り込み、まるで水鏡のようです。

ところが一か月も経つと、その様子は一変。稲はぐんと背丈を伸ばし、青々とし始めます。そう、青田になるのです。

ちなみに、青田の上を吹き渡る風のことを「青田風」(あおたかぜ)、風で波打つ稲の様子を「青田波」(あおたなみ)と呼びます。

ぐんと背を伸ばした稲は、風が吹くとそよそよと優しく揺れ、波のように伝わっていきます。田んぼを緑の大海原に見立てた「青田波」という言葉、とても風流で涼やかです。

夏の言葉(3)青楓(あおかえで)

青楓とは、楓の若葉のこと。紅葉の季節もさることながら、清々しい新緑もまた美しいものです。

紅葉の名所・京都では、青楓を「青もみじ」とも呼び、多くの“青もみじの名所”があります。ます。シーズンになると青もみじが涼やかに染まり、目を愉しませてくれるのです。

たとえば有名なのが、岩倉実相院の「床みどり」。磨き込まれた床に緑が写り込む美しさは格別です。

東福寺の境内を埋め尽くす約2000本もの青もみじも見事!通天橋を仰ぎ見ると、まるで緑色の大海原に橋がぽっかりと浮かんでいるかのようです。

ちなみに、楓と紅葉(もみじ)の違いって何だろう……と疑問に思ったことはありませんか?

楓ともみじ、どちらも似た形をしています。でも楓と呼んだり、もみじと呼んだり、あまり区別せず使ったり……ふと考えると違いが気になりますね。

実は楓ともみじ、どちらもカエデ科カエデ属の植物。植物学的には同じ扱いになります。もみじというのは、カエデ属の中にあるいくつかの品種につけられた名前なんです。

たとえばイロハモミジは代表例で、カエデ属の品種の一つということ。葉っぱが「5つ以上に」「深く」切れ込んでいることが特徴です。

要は「カエデという大きなくくりがあり、その中にモミジがある」と大きく捉えると分かりやすいですね。

透き通るように美しい青楓、そして青もみじは、初夏の風物詩。梅雨の晴れ間を見つけて、一時期だけの美しさを愛でたいものです。

夏の言葉(4)山滴る(やましたたる)

「山滴る」は、山全体が緑で覆われ、まるで緑が滴るかのように見える様子を表した言葉。緑のみずみずしさを捉えた、とても美しい夏の季語です。

山を使った季語には、春の「山笑う」、夏の「山滴る」、秋の「山粧(よそお)う」、冬の「山眠る」と、四季を表す言葉があります。

山の草木が一気に芽吹き、山全体が明るく「笑う」春。そして、緑色に染まった緑色が、まるで「滴る」かのような夏がやってきます。雨上がりは特に、緑が滴るかのように感じられます。

次は、木々が赤や黄色、オレンジ色に染まり、まるで化粧しているかのように山が「粧う」秋。そして木々も葉を落とし、まるで「眠る」かのような冬が訪れます。

笑う、滴る、粧う、眠る。どれも短い言葉です。でも身近な「山」という存在と組み合わせることで、とても詩情たっぷりの表現になり、山を眺めたくなるから不思議です。

夏の言葉(5)夏木立(なつこだち)

夏木立とは、青々と葉を生い茂らせた木立のこと。夏の季語としても使われる言葉です。

たっぷりと葉をつけた夏木立の下は、涼しい木陰。夏の強い日差しをさえぎってくれます。

直接受けるとジリジリする日差しも、葉を通れば木漏れ日になり、とても優しげ。そして、吹き抜ける風も涼やか。散歩中に暑さをしのぐには、格好の場所です。

木立は、季節の流れと共に姿を変えていきます。夏木立の時期を過ぎると、間もなく秋。落葉樹が色づき、美しく染まった姿を見せてくれます。そして葉を落として冬を迎えるのです。

夏の暑い時期に葉を茂らせてくれるとは、なんだかうれしい贈り物のような気がしますね!

夏の言葉(6)青鬼灯(あおほおずき)

青鬼灯とは、まだ赤みを帯びていないほおずきのこと。オレンジ色に熟したほおずきとは違った清々しさがあります。

ほおずきは古くから薬効が知られ、人々に愛用されてきました。初夏になると、各地で「ほおずき市」が開かれます。東京・浅草寺の「ほおずき市」は特に有名ですね。

ほおずき市には、ほおずきの鉢植えや、鈴なりになった枝ほおずきなどがたくさん並びます。中にはこんな風に、青から赤へと変わりゆくほおずきも。

各地にほおずき市が立つのは、そろそろ梅雨が明けるころ。本格的な夏の到来も間近です。

まだ熟していない「青鬼灯」は夏の季語、そして赤く色づいた「鬼灯」は秋の季語です。違いは、青という一文字があるかないか。その一言に季節の移り変わりが垣間見えて、とても風流です。

「涼」を感じる夏の言葉

暑いからこそ、涼が愛しくなるもの。エアコンがなかった時代、人々は水辺に行ったり、見た目の涼しさを作り出したり、いろいろな工夫を凝らして暑さをしのいでいました。

滝浴みや夏座敷など、古来の人々の知恵が詰まった、涼しさを感じる夏の言葉を紹介します。

夏の言葉(7)滝浴み(たきあみ)

滝浴みとは、滝に打たれたり、滝の水で遊んだり、眺めて楽しんだりして、涼を求めること。江戸時代の風習だと言われています。

今のようにエアコンのない時代。人々は、冷房で温度を下げるということができませんでした。

そこで借りたのが自然の力。暑い季節が到来すると、江戸時代の人々は涼むために、いそいそと涼しい場所へと出かけたのです。

涼みに行く先として人気を集めたのが「滝」。たとえば、歌川広重が描いたこちらの絵にも、滝浴みする様子が描かれています。


歌川広重《名所江戸百景 王子不動之瀧》

滝のすぐ手前で、ふんどし姿の男性が滝浴みをしています。手前に描かれた女性二人連れも、滝の音や水しぶきを感じながら、涼をとっているのでしょう。

題名に「王子不動之瀧」とあるように、これは王子にあった「不動の滝」を描いたもの。

この絵に描き込まれた王子界隈は、多くの滝があった場所。行楽を兼ねて、出かけるのが流行っていたのだとか。

この不動の滝は現在はもうありませんが、起伏に富んだ地形をもつ日本には、いまも全国各地に美しい滝があります。

たとえば、長野県・軽井沢の「白糸の滝」。白く細い水の流れがとても清らか。まるで絹糸のカーテンのようです。

そして、熊本県・小国町の「鍋ヶ滝」。

昔キリン生茶のCMで使われたことで有名になりました。滝の裏側からみられる“裏見の滝”としても人気を集めています。

ちなみに滝の別名に「水簾」(すいれん)という言葉があります。由来はその名の通り、まるで水が流れ落ちる様子が簾(すだれ)のように見えるところから。なんと風流な見立てなのでしょう!

宮崎県・高千穂にある「真名井の滝」は、渓谷に流れ込む滝です。

手漕ぎボートに乗り、滝の近くまで行って間近に滝を感じることができます。まさに滝浴みですね!

流れ落ちる水量の迫力、滝が奏でる水音、清涼感あふれる空気。そんな滝の風情を間近に感じると、心身が透き通っていきそうです。

夏の言葉(8)夕涼み(ゆうすずみ)・夜涼み(よすずみ)

江戸時代の人々は、日が暮れると「夕涼み」や「夜涼み」に出かけ、涼を愉しみました。

川辺をそぞろ歩いたり、舟遊びに出かけたり。庭先や川辺に「涼み台」と呼ばれる腰掛け台を置き、夕風や夜風を受けて涼みました。

涼を愉しんだ場所もさまざまです。磯涼み門涼み橋涼み土手涼み……少しでも涼やかな風が吹く場所を探し、散策していた人々の姿が目に浮かびます。

いまはエアコンがあるおかげで、夕涼みや夜涼みをすることは減りました。暑いからこそ、部屋に閉じこもりがち。でも時には、夕方や夜にふと外に出てみるのも良さそうです。

夕方に打ち水をした後、さっと吹き抜ける風の涼しさ。夜の静けさの中で、虫の音が聞こえる心地よさ。何気ないひとときに涼を感じることが、心を穏やかにしてくれそうです。

夏の言葉(9)夏座敷(なつざしき)

夏座敷とは、ふすまや障子などを開けたり取り外したりして風通しをよくし、調度類も涼しげに整えた座敷のことを指します。

たとえば、ふすまや障子のかわりに葭障子やすだれを吊るし、風の通り道を作りました。家の中に風を取り込むことで、涼をつくったのです。

現代生活では、いかに外の暑い世界と切り離すかを考えがち。でも“外とつながる暮らし”をすると、夏にしか吹かない風を感じることができますね。

夏座敷といえば、「奥の細道」の旅の途中、松尾芭蕉の詠んだ句が有名です。

山も庭に 動き入るるや 夏座敷

「なんと趣きのある、涼やかな夏座敷だろうか。山も風情に惹かれ、思わず庭に入って来たことよ」といったところでしょうか。とても美しい夏座敷だったのでしょうね。

「食」にも取り入れたい夏の季節感

四季のある日本の食は、とても細やかです。旬の食材を使うのはもちろんのこと、花や葉を料理に添えてさりげなく季節感を表現したり、季節に合った器を利用したり。

夏には、夏らしい食を愉しみたいもの。涼味や六月柿など、料理にまつわる夏の言葉を紹介します。

夏の言葉(10)涼味

涼味とは、涼しそうな趣をもつ料理、涼しさを感じる味わいなどを指す言葉です。

暑くなると、ひんやり感やすっきりした爽快感が恋しくなりますよね。日本人は古来、料理に創意工夫を凝らし、夏の暮らしの中に涼しさを作り出してきました。

見た目も涼しげだと、さらに食欲をそそります。ガラスの器に盛り付けたり、砕いた氷の上に刺身を乗せたり。日本料理店で、蓮の葉の上に盛り付けた料理が出ると、夏が来たなと感じます。

そして何より、夏の食材そのものに涼味があると思いませんか?太宰治が「キュウリの青さから夏が来る」と表現したキュウリは、夏の代名詞。

森鴎外に溺愛されて育った文筆家の森茉莉も、キュウリに関するこんな文章を残しています。

胡瓜もみだけは戦前の、六月の初めに出てくる胡瓜を皮に斑に剥いて薄く切り、塩でさっともんだものを、生醤油か二杯酢で、温かい御飯で食べるのでなくては駄目である。 ~中略~ 昔の初夏の胡瓜もみと御飯位なつかしいものはない。

(引用)ちくま文庫 森茉莉著・早川茉莉編『紅茶と薔薇の日々』16Pより

キュウリではなく胡瓜。漢字で書くと、より涼味が際立つ気がします。

ここに描かれている料理は、とてもシンプル。ただ塩でもんだ胡瓜に、生醤油が二杯酢で風味を加えただけ。ほぼ手を加えない一品です。

だからこそ、キュウリがもつみずみずしさや、青々強い風味……そんな涼味が際立つのかもしれませんね。

夏の言葉(11)六月柿

六月柿という言葉をご存じでしょうか?実は六月柿とは「トマト」の別名なんです。

トマトと柿。なんだか不思議な組み合わせです。でも、ころりと愛嬌のあるフォルムと、懸命に赤くなろうとしている姿が、少し似ているかもしれませんね!

トマトには他にも「赤茄子」という別名もあります。でも六月柿のほうが、うんと風流な気がしませんか?

夏はトマトがおいしい季節。つい洋風の料理に仕上げがちですが、「六月柿」という言葉を知ると、和食としていただきたくなります。

たとえば、湯むきしたトマトを出汁に浸した“トマトの和風おひたし”。しっかり冷やせば、トマトの旨みがぎゅっと出る一品になります。

冷やして食べる、夏おでんの具にもいいですね!オクラも添えると色も鮮やかです。

夏の言葉(12)青楓・雲の峰(夏の和菓子)

夏になると、夏の季語を冠した和菓子がお目見えします。透き通るような緑を表現した「青楓」や、緑濃い木立の様子を表現した「夏木立」……どれも夏の美しさを教えてくれます。

他には「雲の峰」と名付けられた和菓子もあります。「雲の峰」とは、夏の空に浮かぶ入道雲のこと。むくむくと白くそそり立つさまを、山の峰にたとえた言葉です。

雲の峰とは、なんと風流な言葉なのでしょうか。雲の峰と捉えた途端、空に広がる光景が絵画のように感じられるから不思議です。

夏らしい青空に、ひときわ映える白い雲。そんな夏の風情を、存分に味わうひとときは、きっと夏を好きにさせてくれるはずです。

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まとめ

日本の夏には情緒があります。花火に祭り、浴衣、風鈴、西瓜、かき氷……昔から伝わって来た夏の風物詩。どれをとっても、暑さに寄り添い、涼をとる工夫が感じられます。

夏の情緒を愛でていれば、きっと秋がくるのもあっという間。暦が秋になってしみじみと感じる涼しさを「新涼」(しんりょう)と言います。暑いさなか、ささやかな涼を感じとろうとしているうちに、新涼がそっと忍び寄ってくれるのかもしれませんね。

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