雨にまつわる言葉13選!思わず雨が待ち遠しくなる美しき表現

日本語には、雨にまつわる美しい言葉がたくさんあります。降り出した雨も、紅色の絨毯と出会える「山茶花時雨」や、春の訪れを知らせる「雪解雨」だと思うと印象が変わりませんか?

雨は季節によって降り方を変え、そのときどきの風情を伝えてくれます。降り方に注目すれば、音にも耳を澄ませたくなります。思わず雨が待ち遠しくなるような、雨にまつわる美しい言葉を集めました。

季節の移ろいを感じる雨

桜咲く季節に降る雨、新緑まばゆい季節に降る雨。同じ雨といえど、季節によって違います。今だけの雨と思うと、目の前の景色が愛しいものに思えてきますね。

日本では昔から、季節の雨を呼び分けてきました。季節の移ろいが感じられる、響きが美しい雨の言葉を紹介します。

雨の言葉(1)花の雨(はなのあめ)・花散らしの雨

花の雨とは、桜の花が咲く頃に降る雨、そして桜に降り注ぐ雨のことを表しています。桜の花の印象が重なると、途端に雨が風情あるものに感じられます。

繊細な桜の花びらは、雨が降ると散ることもしばしば。しきりに花びらを散らせる雨を「花散らしの雨」と呼びます。

桜の開花は、ほんのわずかな期間。今か今かと待ちわびた桜が散るのは、なんだか寂しいもの。いつかは散るとは分かっていても、思わずため息がこぼれます。

でも、雨に濡れた花びらって、とても美しいと思いませんか?透き通るような美しさ、まるで絹のようなしなやかさ。つい引き込まれる美しさです。

それに無数の花びらが散ると、桜の絨毯とも出会えるのです。自然が織りなす光景には、心を研ぎ澄ませるような美しさがありますね。

そして、花散らしの雨が降るからこそ、出会える美しさもあるんです。

たとえば、「花筏」(はないかだ)。水面に散った花びらが風に吹き寄せられると、まるで筏のよう。ゆらりゆらりと揺れる花びらを筏に見立てるとは、なんと繊細な感性なのでしょうか。

そして、「花の浮き橋」。花筏が集まると水面に花びらが敷き詰められ、まるで浮き橋のよう。こんな風流な感じ方をした故人の美意識に、頭が下がります。

花の雨、花散らしの雨、花筏、花の浮橋……どれも大事にしたい美しい言葉です。

雨の言葉(2)余花の雨(よかのあめ)

余花の雨とは、青葉の季節に咲く“遅咲きの桜”に降り注ぐ雨を指す言葉です。

余花の開花は、樹木が芽吹き、山が若葉に覆われるころ。山中などでひっそりと花を咲かせます。

まわりはもう新緑の世界。柔らかな緑色に包まれ、夏へと向かう季節です。そんな中、ぽつりぽつりと点在するように咲く姿には、ならではの趣がありますね。

よく似た言葉に「残花」(ざんか)がありますが、こちらは春の季語。晩春まで咲き残っている桜を指します。残花という言葉には、今年最後の桜を惜しむような雰囲気が漂います。

一方、余花は夏の季語。もう今年は見納めと思っていた桜と、思いがけず出会うことができた……そんな静かな喜びが、じわじわ溢れ出るかのような響きがあります。

新緑と桜。その両方をしっとりと濡らす、余花の雨。水を受け止めてみずみずしく輝く若葉と、透き通るような桜の花びら。そんな取り合わせが愉しめるのは、余花の雨ならではですね。

雨の言葉(3)若葉雨(わかばあめ)

初夏を迎えると、野も山も青葉に包まれます。若葉雨とは、新緑の季節に降る雨のこと。若葉に降り注ぐ雨そのものも指します。

雨にしっとり濡れた新緑は一層美しく、ひときわ新緑の生命力が際立つかのよう。軽やかな葉の重なり、そこに光る雨粒。雨上がりには、幻想的な光景が広がります。

若葉雨の愉しみといえば、やはり音。柔らかな若葉が雨を受けると、とても繊細な音が聞こえます。

耳を澄ませると、しとしと、はらはら……まるで葉を丁寧に洗い落としているかのよう。ひそひそ話をしているようにも聞こえます。木々の葉を静かに打つ雨音は、心を和ませてくれる自然のBGMですね。

雨の言葉(4)栗花落(ついり)

栗花落は「ついり」と読み、 梅雨入りを意味します。栗の花が散る頃に梅雨入りすることから、「栗花落」という漢字があてられるようになったのだとか。

栗は、木を覆うようにして立派な花を咲かせます。もふもふとした花弁が、とても豪華ですね!

これほどたっぷりと咲いた花が落ちるのですから、きっと見事な散りっぷりでしょう。思わず「栗花落」と感じてしまうのも分かります。

そして栗の花が散った後、少しずつ栗の実が育っていきます。梅雨から夏、そして実りの秋へ。季節はゆっくりと、そして着実に巡っていくのですね。

雨の言葉(5)洗車雨(せんしゃう)

洗車雨とは、七夕の前日、陰暦7月6日に降る雨を指す言葉です。彦星が織姫を迎えに行くために牛車を洗う、その水になぞらえているのです。

年に一度の逢瀬。少しでもきれいな牛車で迎えに行きたい……そんな想いが雨となって落ちてくると思うと、とても風流です。

ちなみに七夕の夜に降る雨は「催涙雨・洒涙雨」(さいるいう)。二人が流す涙なんだとか。ほんのりと切なさを感じる言葉です。

一方の洗車雨は、とても楽し気な雰囲気。だって翌日を楽しみに、車を美しく整えているのですから!

洗車雨という言葉を知ると、七夕の前日の雨が待ち遠しくなりそうです。雨が降ってきたら、思わず応援したくなりそうですね。

雨の言葉(6)卯の花腐し(うのはなくたし)

「卯の花腐し」とは、梅雨に先立って降る長雨のこと。夏の季語としても使われます。

ちなみに、卯の花とは空木(ウツギ)の花のこと。旧暦の卯月(うづき)に咲くことから、卯の花と呼ぶのです。

初夏の空の下、白い花を咲かせるウツギ。雨が降り続けばくったりとして、散ってしまいます。

美しく咲き誇る卯の花を落とすような長雨の季節になった……そんな感慨を込めて使うと、梅雨も風流なものに感じられますね。

次は、雨を受けて美しく咲く花がお目見えします。紫陽花に睡蓮、そして花菖蒲。一年ぶりの再会だと思うと、卯の花腐しも悪くありませんね。

雨の言葉(7)雪解雨(ゆきげあめ)

雪解雨とは、冬に積もった雪を溶かすように降る、春先の雨のこと。雪解雨が降れば、春はもうすぐです。

雪解雨は雪を溶かし、木々や草花の芽生えをうながす雨。長い北国の冬に終わりを告げ、春を知らせる雨でもあります。

雪解という言葉は「川」がつくと、雪解川(ゆきげがわ)という言葉になります。

清らかな雪解け水を集めて流れる雪解川。清らかさと躍動感、想像しただけで水音が聞こえてきそうです。

降り方いろいろ

雨は降り方によっても名前が変わります。しとしと降る小糠雨、まるで篠竹が降ってくるかのような激しい篠突く雨……言葉一つで、想像が広がります。

古の人々の感性に心打たれる、「降り方」にまつわる美しい雨の言葉を紹介します。

雨の言葉(8)小糠雨(こぬかあめ)

小糠雨とは、音もなく静かに降る、ごく細かな雨のこと。その細かさを“糠”にたとえた、美しい雨の言葉です。

小糠雨と呼ぶと、日常で使う「霧雨」よりも、うんと文学的になりますね。小さく軽やかな雨粒が見えるかのよう。そこかしこに漂う雨粒が、優しく包んでくれるような気がします。

傘をさそうかさそまいか……そう考えあぐねるような、優しい雨。きっと草木も心地よく、雨粒を受け止めているのでしょう。

雨の言葉(9)小夜時雨(さよしぐれ)

時雨とは、降ってはすぐやむような通り雨のこと。小夜時雨は、夜に降る時雨を指す言葉です。漢字も響きも、なんと美しい言葉なのでしょうか。

「小」は接頭語で、小夜は夜を意味します。夜と小夜、意味は同じ。でも小夜となることで優し気な雰囲気になり、夜の静けさが際立ちます。

しんと静まり返った夜に、しとしとと降る雨。ほんの少しさみしげで、でもしっとりと辺りを包み込むような……優雅さが感じられる雨の言葉です。

雨の言葉(10)山茶花時雨(さざんかしぐれ)

山茶花時雨とは、山茶花が咲くころに降る雨のことを指します。

冬枯れの景色の中に咲く、鮮やかな山茶花。そこに優しく降り落ちる雨……山茶花の花びらが艶を増し、冬の光景を彩ります。

花ごとぽとりと落ちる椿と違って、山茶花は花びらが一枚ずつ散っていきます。はらはらと山茶花の花びらを落とす雨を指す「山茶花散らし」という言葉もあります。

天気予報で「明日は山茶花散らしの雨が降るでしょう」といった表現を聞いたことはありませんか?

地面を埋め尽くす山茶花は、まるで紅色の絨毯のよう。冬に降る冷たい雨も、山茶花散らしの雨だと思うと、美意識の感じられる雨に早変わりです。

雨の言葉(11)そぼ降る雨

そぼ降る雨とは、しめやかに、しとしと降る雨を指します。

そぼ降るの「そぼ」とは、古語の「濡つ」(そぼつ)からきた言葉。「しめやかに降る」「しとしとと降る」といった意味をもっています。

今は使われない言葉ですが、なんとなくニュアンスが伝わる、繊細な言葉だと思いませんか?

同じ雨でも「そぼ降る雨に打たれて」となると、途端に情緒漂う光景に感じられるから不思議です。美しい言葉を後世に残していきたい……そう思わせてくれる言葉の一つです。

雨の言葉(12)肘笠雨(ひじかさあめ)

肘笠雨とは、急に降り出す雨のこと。あまりに突然で笠をかぶることもできず、肘で防がなくてはならない雨のことを指します。

肘を頭上に上げても……と思うかもしれません。昔は今と違い、着物の袖がありました。そう、袖を笠代わりにしていたのですね。

笠の代わりにかざした袖を指す「袖笠」(そでがさ)という言葉もあります。袖で雨をしのいでいる様子には、優雅さが漂う気がします。

雨の言葉(13)篠突く雨(しのつくあめ)

篠突く雨とは、篠竹(しのだけ)を束にして地面に突き下ろすような、激しい雨のこと。篠竹とは、細くて群がって生える竹や笹をまとめていう言葉です。

細く、見るからに鋭そうな篠竹。そんな篠竹を束ねたものが、しかも“突くように”落ちてくるのです。いかに激しいかが分かります。

でも、降り込められるような豪雨も、篠竹のようだと思うと、なぜか青々しい心地よさが感じられるから不思議です。

まとめ

雨の降っている風景のことを「雨景色」(あまげしき)といいます。山茶花時雨に卯の花腐し、篠突く雨……どの雨にも個性があります。雨にまつわる言葉を知っていると、雨景色が美しいものに感じられそうです。

雨を愉しみにできたら、心地よく過ごせる日が増えますね。先人たちから受け継いだ、日本人の美意識が息づく雨の言葉、大切にしたいものです。

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